吟醸酒の香りに魅了されて…繊細な文化に育まれた日本酒。

外国人が評価する多彩な日本語の語彙。

日本を訪れる外国人が増え、
東京や京都、大阪など、
世界に名の知れた街では、
日本人より、外国人の数の方が
多いのでは、と錯覚するほど。

彼らの中には、人気のアニメや
漫画を通して日本を知り、
SNSなどの情報で日本への憧れを
抱いた方も少なくありません。

そして、日本を訪れた方々は、
また別の日本文化に触れ、
新たな興味へ…新旧が織りなす
多彩で多様な文化が混在する“日本”
というワンダーランドの魅力に、
日本人以上に気づいているようです。

そんな中、「日本語」そのものに魅了
される外国人も多いようです。

お店での“いらっしゃいませ”や
ホテルの“行ってらっしゃいませ”など、
おもてなしの言葉が普段使いで
交わされることは、とても新鮮。

また、静けさを表す
“シーン”という表現や、
雨の降り方も“シトシト”
“ザーザー”“ぽつぽつ”
と表現されるなど、
世界に類を見ないほどの豊富な
「オノマトペ(擬音表現)」。

“タピる(流行のタピオカ
ドリンクを飲みにいく)”
“ありよりのあり
(ありかなしかでいえば、あり)”
“フロリダ(風呂に入るから、
SNSから離脱するという略語)”
のように、日々増殖する若者言葉。

“郵便局”“ぷにょぷにょ”など、
単語そのものの音の響きがキュート
という、外国人目線の日本語の魅力。

いろいろな視点で触れる「日本語」は、
外国人にとって驚きの連続
なのかも知れません。

本来、中国発祥の「漢字」も、外国人
には日本のクールな魅力のひとつ。

日本贔屓の米・女性歌手が
“7 rings”というアルバムを
リリースした際に、それを記念して
“七輪”というタトゥーを入れた
という、笑えないお話も。

とはいえ、多くは漢字のデザイン的な
スタイルへの興味を入り口に、
意味や類語を知り、その奥の深さから、
さらなる共感へと繋がっていきます。

たとえば「におい」に関する表現を
挙げると“芳香”“薫香”“香気”“異臭”
“芳烈”“清香”“遺薫”“佳芳”“馨香”、
ひらがなを含む“匂い”“臭い”“香り”“薫り”、
ひらがなだけの“におい”“にほい”
“かおり”“かほり”“くさい”、
においに関する単語と一緒になって表現する
“麗しい”“甘美な”“甘酸っぱい”という
言葉など数限りない表現方法があります。

外国の言語とくらべると、圧倒的な幅を持つ
語彙(ごい)バリエーションは、
シーンに応じた微妙なニュアンスや
比喩を用いて、繊細に表現できることは
「日本語」の大きな魅力となっています。

低温醗酵がつくり出す、果実のような吟醸香。

さて、日本酒の香りに関する表現
としては、“馥郁”“芳醇”“豊潤”
などが、よく使われる表現です。

とくに吟醸酒などは、フルーティな
香りが高いことを表した「芳醇」が
適切ではないかと思われます。

ラベル裏側の原材料名を見てお判り
いただけるように、
日本酒全般に、人工的な香りをつける
ことは禁止されています。

ところが、吟醸酒などは“吟醸香”と呼ばれる
果実のような香りが、その特徴のひとつ。

ワインはブドウの香り、
ビールならホップの香り…
原材料由来の香りが特徴づける持ち味
となっていますが、
日本酒の原材料である、
米や米麹は香り成分を
ほとんど持ち合わせていません。

日本酒の香りは、醪(もろみ)が
醗酵する中で、酵母が持つ
酵素の働きによって、
フルーティな香り成分を
つくり出しています。

吟醸酒づくりの基準である
“酒米を60%以下に磨く”ことで、
酒米の表層にあるミネラルや脂肪、
ビタミン、タンパク質などの
栄養成分が削り取られます。

さらに、10℃以下の低温で
醗酵させることにより、
酵母を飢餓状態に保ちます。

こうした環境で醗酵させることで、
果実のような香気成分を
つくり出すことになります。

この吟醸香の成分には、
青りんごや洋梨のような香りの
“カプロン酸エチル”や
バナナの香りに例えられる
“酢酸イソアミル”が含まれており、
これらはそれぞれの
果実にも含まれる成分です。

醪の温度が高いほど、
吟醸酒の香り成分は
飛散しやすくなります。

また、
醪を搾る際に酒粕に香りが移り、
お酒そのものに吟醸香が
残らないこともあります。

日本酒の並行複醗酵は複雑で、
さまざまな要素が影響し合うため、
単純な醪のコントロールだけで、
吟醸香を安定的に醸し出すことは、
かなり至難の業。

何度も試行錯誤を繰り返し、
酵母や原料の特性を把握しなければ、
美味しい吟醸酒をつくる
ことはできません。

外国のワイナリーの醸造家は、
吟醸酒のフルーティさに驚き、
その香り成分が醗酵によって
もたらされていることを聞き、
驚愕したといいます。

吟醸酒に限らず日本酒の香りは、
卓越した技術の成せる業なのです。

吟醸酒をワイングラスに注いで、
“ひとくち”いかがですか。

ワイングラスの底は深く、
吟醸酒の香りが
グラスの曲線に沿うように
内側にこもります。

いつものお猪口とくらべると、
不思議なことに、
いままで感じにくかった
深い吟醸香を楽しめること、
請け合いです。

吟醸酒づくりの繊細さは、日本酒の醍醐味。

精米歩合とアル添が、日本酒分類の基準。

以前、テレビのバラエティ番組の
ニューヨーク特集で、
スーツ姿のニューヨーカーたちが、
“ジュンマイダイギンジョウ”と
注文するシーンを
見かけたことがあります。

ビジネス街に程近い立地で、
日本食を中心とした
居酒屋スタイルのお店でした。

店内は、アメリカ映画などで
よく見る“誤った日本観”満載の
アジアンテイストではなく、
日本の懐き良きレトロな雰囲気を
上手く取り入れた、
凝ったつくりの装飾。

昨今の日本食ブームもさることながら
、日本酒も外国人に受け入れられて
いると実感した瞬間でした。

通信や物流の加速度的な発達は
、世界をより身近なものへと
近づけているようです。

昭和の“級別制度”が廃止され、
現行の分類に落ち着いたのは、
1990年(平成2年)のこと。

その体系の基本が、
8種類の「特別名称酒」と、
それ以外の「普通酒」です。

この日本酒の分類体系を
簡単に紹介すると、
分類体系を知る上での
ポイントは大きく2つあります。

「精米歩合で名称がかわる」
「醸造アルコールを
添加(アル添)していないもの
には“純米”と表記される」。

この2つを組み合わせて、
普通酒を加えた9種類が
決まるということです。

精米歩合とは、
米を磨いた残りのパーセンテージ。

たとえば、“精米歩合60%”の場合、
4割が削られることになります。

  • 精米歩合50%以下…
    純米大吟醸酒/大吟醸酒(アル添)
  • 精米歩合60%以下…
    純米吟醸酒/吟醸酒(アル添)
  • 精米歩合60%以下、
    または特別な製造方法…
    特別純米酒/特別本醸造酒(アル添)
  • 精米歩合70%以下…
    本醸造酒(アル添)
  • 精米歩合の規定なし…
    純米酒/普通酒(アル添)

日本酒のラベルに記される原材料と
醗酵を促す醸造工程の基本
はほとんど同じ。
ということを考えると、米や水、
麹菌の種類、なにより、
その特長を巧く引き出す時間や
温度の管理技術など、微妙な“さじ加減”
の大切さを思い知らされます。

この差を実感したい方には、
種類の違う日本酒の飲みくらべを、
ぜひお勧めしたいところ。

飲みくらべて分かる、その違い。

日本酒の深さを知る、
いい機会といえます。

手間ひまかかる吟醸酒づくり。

なかでも、手間ひまのかかる「吟醸酒」。

読んで字のごと
く“吟味して醸造する”日本酒です。

精米歩合60%以下、
大吟醸酒ともなると
50%以下まで酒米を磨くのが、
吟醸を名乗るための条件。

まず、精米。

米の磨かれ具合にばらつきがあったり
、砕けた米が混入していると、
酒の質を落とし兼ねないため、
細心の注意が必要です。

精米時間に二昼夜を費やす
ことも多くあります。

精米後、摩擦熱を持った米を
倉庫で冷ます“枯らし”工程。

そして3〜4週間後、
残っている糠を取り除くために
“洗い”の工程となります。

ご飯の米は“とぐ”といいますが、
酒造りにおいては、
米と米を擦り合せると米粒が
砕けてしまうこともあるため、
文字通り “洗う”工程といえます。

洗い終えた米は水に浸けて、
米の芯まで適度に吸水させますが、
水を吸わせすぎると蒸米が
柔らかくなりすぎて、その後の
麹づくりが上手くいかないことも。

その日の気温、
米の品種、新米か古米か、
収穫時が豊作か凶作か、
さまざまな条件を加味した
調整は必須です。

とくに吟醸酒の場合、
精米歩合が低くなるので、
洗米、浸漬は基本、
手作業が中心です。

そして“蒸し”工程。

ご飯は炊くといいますが、
酒造りでは“蒸す”です。

蒸した米は硬めに仕上がるので、
米粒同士があまりくっつかず、
麹づくりの際、
麹菌が繁殖できる表面積を
大きくすることが目的です。

また、炊いた米は消化しやすいため、
糖化と醗酵のバランスが崩れて、
日本酒独特の並行複醗酵が上手く
できないことも挙げられます。

ちなみに炊いた米の水分が約65%
なのに対して、蒸した場合は
約35%とい大きな差があります。

吟醸酒では、低温でじっくりと
醗酵を行う必要があるため、
糖化とアルコール醗酵の
バランスがとても大切。

蒸米が柔らかすぎると
米が溶解しやすく、
醪(もろみ)の糖分が増加。

それに伴って
酵母の醗酵も弱まります。

醪を仕込んでしまうと、
あとは温度管理により
バランスをコントロール
しなければならなくなります。

酒造り全般にいえることですが、
“良いお酒を造ろうと思えば、
原料処理に行き着く”
といわれるほど、
これまでの工程はとても大切です。

そして次に続く“麹づくり”は、
さらにデリケートです。

米の芯まで繁殖する麹菌が育つ
“突き破精麹(つきはぜこうじ)”
をつくりだすとともに、
低温長期醗酵の醪の中でも
でんぷんを分解し、
酵母のエサとなるブドウ糖を
十分に供給させるため、
二晩がかりの温度管理は大切です。

麹菌が繁殖しはじめると、
自らの発する熱のため、次第に
麹の周囲の温度は上昇し、やがて
麹の繁殖が止まってしまうためです。

そして醪の工程。

醪は10℃以下の低温で、
30〜40日もの長期にわたる
低温管理が必要です。

低温の場合、
醪の酵素の働きや酵母の醗酵が
抑制されるため、
時間がかかるということです。

とくにこだわった吟醸酒をつくる際は
、次の“しぼり”の工程で、
醪を入れた酒袋を吊るして、
ゆっくり時間をかけ、
自然にしたたるお酒を採る「袋搾り」
や「しずく搾り」という
手法を採る場合もあります。

とくに、アルコール添加のできない
「純米大吟醸酒」では、
お酒のアルコール分はすべて酵母
からつくらないといけないため、
酵母の醗酵力を最後まで
維持しなければなりません。

酒米を半分以下まで磨き、
酵母の働きをコントロールするために
低温での醗酵管理が重要なポイントです。

普通酒とくらべると、
膨大な手間とひまがかかる吟醸酒づくり。

旨さの探求のためには、
それも大切なことです。

こうした苦労の末に誕生する吟醸酒の
お話を思い浮かべながら飲むと、
その味わいや印象も深まり、
より一層堪能できるに違いありません。

日本酒の旨さを支えているのは、国に守られた“カビの仲間”。

醗酵食品と醗酵飲料の相性が生み出すマリアージュ。

最近、チーズがブームのようです。

2018年は、若い女性層が
チーズタッカルビや
スイス原産ラクレットチーズを使った
料理を出すお店に足しげく通い、
コンビニのチーズスイーツに
人気が集まるなど、チーズの話題が
メディアでよく取り上げられました。

2019年も、シカゴピザやパネチキン、
チーズティーなど、“映える”
新しいチーズ料理が続々登場し、
女性を中心としたチーズ人気は、
しばらく続きそうな気配です。

日本のチーズ消費が
爆発的に高まったのは、
1975年(昭和50年)頃の
ピザが出はじめたあたりから。

グラタンやチーズフォンデュ、
チーズケーキなどの洋食文化の広がり
とともに、チーズは欠かせない食材
として、私たちのくらしの中に
定着していきました。

以前は独特な臭いや味で
敬遠されがちだったブルーチーズも、
美味しいパスタ料理や
相性のいいお手頃なワインが
数多く流通するようになったことで、
市民権を得たといえます。

ワインと料理の相性をマリアージュ
といいますが、ともに同じ醗酵させた
飲料や食品なので、もともと好相性。

また、チーズのタンパク質が
ワインのタンニンと結びついて
ワインの渋みをまろやかにしたり、
チーズ独特の刺激臭を
ワインの甘みが緩和したり、
チーズの乳成分が舌に膜をつくり、
ワインの渋みや酸味を
マイルドにするともいわれています。

ワインと同じ醸造酒である日本酒
ですが、実はチーズとの相性は抜群。

日本酒のアミノ酸による旨み成分が、
クセの強いチーズとうまくマッチして
美味しさの相乗効果を高めます。

海外のチーズ愛好家にも、日本酒との
相性を高く評価する向きがあります。

日本酒とチーズのマリアージュの一例
ですが、クセの強いブルーチーズに
合うのは「超特撰 生酛大吟醸酒」。

クセをうまく調和させてバランスの
良い旨みを醸してくれます。

マイルドな味わいの
モッツァレラチーズには、発泡系の
「スパークリング純米大吟醸酒
天使の吐息」。

菊正宗 天使の吐息

スッキリとした爽やかな味わいが
口に広がります。

「嘉宝蔵 灘の生一本 生酛純米酒」
には、ハードタイプのチーズ。

旨みとコクの絶妙なバランスが
楽しめます。

チーズは、乳酸菌や酵素、カビなどの
微生物の働きによる熟成工程で
乳タンパクや脂肪を分解し、それぞれ
のチーズの個性を引き出します。

また、個性的な特徴を生み出すため
に、カビを使ったチーズがあります。

青カビを使った独特な臭いとピリピリ
とした刺激的な食感のブルーチーズ、
白カビを使ったクリーミーで
まろやかなカマンベールチーズや
ブリーチーズがその代表格。

“カビ=有毒”と思われがちですが、
ほとんどの青カビ
(白カビも青カビの一種)は無毒。

むしろ抗生物質のペニシリン製造に
有用な微生物なのですが、
一部のカビ毒「マイコトキシン」を
持つものが重篤な食中毒の原因
となるため、そこばかりが目立って
いる残念な微生物といえます。

日本酒に欠かせない“黄麹菌”は、国菌に認定。

日本酒に使われる麹菌も
カビの仲間です。

ヒマラヤ地域と東南アジアを含む
東アジア圏には、特有の
醗酵文化が根付いています。

なかでも、微生物の繁殖に適した
高温多湿な日本は、日本酒などの
醗酵食品の長い歴史を育む土地柄。

日本酒だけでなく、
味噌、醤油、みりん、酢などの
醗酵に欠かせない黄麹をはじめ、
泡盛に使われる黒麹、
焼酎に使われる白麹は
国菌に認定され、
大切に守られています。

醗酵食品に馴染みの薄い
一部の欧米地域では、
カビなどの微生物による醗酵食品
への拒絶反応があるようです。

実は、人にとって有益なものであれば
“醗酵”、有害なものになれば“腐敗”、
両者のメカニズムは
同じものなのです。

1960年のイギリスで、
カビの生えた輸入エサが原因で
七面鳥が大量に死ぬ
という事件が発生。

麹菌の仲間によるカビ毒
「アフラトキシン」が原因でしたが、
その形態が黄麹菌と類似しており、
誤解を招くこととなりました。

もちろん、
黄麹菌はカビ毒を発生させません。

こうした麹菌の謎を解明するために、
2001年に麹菌の
全ゲノム解読プロジェクトが発足。

2005年には、麹菌が約3800万塩基対
からなる8本の染色体を持ち、微生物
では最大の約1万2000個の遺伝子が
存在することが判明しました。

この成果に基づいて、
麹菌196株に対して、
カビ毒「アフラトキシン」を発生
させる遺伝子の解析を実施。

半数近くの麹菌で遺伝子群が不安定、
残りの半数についても、
カビ毒「アフラトキシン」の遺伝子を
有しているものの、その機能を失って
いるという結果にたどり着きました。

科学的な解析により、
その安全性が証明された黄麹菌。

今後、科学の“目”は、
日本酒の旨さをさまざまな角度から
ひも解くことになるでしょう。

その高水準の学術的な研究に
驚くのはもちろんですが、
科学のない時代に生まれた
微生物の活用方法に、
拍手を贈りたいものです。

日本酒の深い味わいを醸す、水の存在感。

宇宙で発見された“水の気配”が、人々を宇宙へと駆り立てる。

1957年、ソ連(現ロシア)が
世界初の人工衛星
「スプートニク1号」
の打ち上げに成功。

人類の夢は宇宙へと、
その第一歩を踏み出しました。

そして、全世界を熱狂の渦に
巻き込んだ1969年(昭和44年)
のアポロ11号による
人類初の月面着陸から50年、
再び、宇宙開発の話題が
世間を賑わせています。

中国の無人探査機が
世界で初めて月の裏側に着陸し、
日本でも探査機「はやぶさ」が
小惑星イトカワの表面物質の採取
に成功した快挙に続いて、
小惑星リュウグウへの
着陸計画のまっただ中。

地上と宇宙をつなぐ夢の
「宇宙エレベーター」計画も、
現実味をおびた話になってきました。

「宇宙エレベーター」の仕組み
そのものは簡単な構造です。

赤道上空の高度
約3万6000キロメートルに
打ち上げられ、地球と同じスピード
で周回する人工衛星を、地上からは
止まっているように見えるため
「静止衛星」と呼びます。

この静止衛星から地上に向けて
ワイヤーをたらして
伸ばしていきます。

地球に向けたワイヤーの重さで
静止衛星が落下するのを防ぐため、
地上に向けたワイヤーと
地球と逆方向に向けたワイヤーに
よって全体の重力が
上手く釣り合うように延伸。

これにより静止衛星を中心とした
地球と宇宙を結ぶ軌道が誕生します。

このケーブルに昇降機を取り付け、
人や物資を輸送できるようにしたもの
が宇宙エレベーターです。

日本で強度と耐久性を兼ね備えた
「カーボンナノチューブ」という
新素材の開発に成功したことが、
計画を一歩進めたといえるでしょう。

月への着陸が叶った今、
次にめざすのは火星。

太陽に近い水星、
金星は表面温度が高く、
また木星や土星は表面が
分厚いガスで覆われ、どちらも
地表に降り立つことができません。

これらの惑星とくらべた場合、火星の
環境がもっとも地球に近いとのこと。

とはいえ、火星の厳しい自然環境を
限りなく再現したとして話題
となった、2015年公開のアメリカ映画
「オデッセイ」を見る限り、
空気も水もなく、昼夜の温度差が激しい
荒廃した火星には、
地球とはくらべものにならない
過酷さが立ちふさがっています。

そんな中、昨年8月に火星の
新たな話題が飛び込んできました。

欧州宇宙機関の研究チームが、
火星の軌道を周回する探査機
「マーズエクスプレス」の
観測データから、火星の南極の地下
に幅20kmにわたって“液体の水”
が存在する兆候があることを発表。

また、何かと物議を醸す米大統領が
“私の政権下でNASAが再興し、
我々は再び月に戻る。
その次は、火星だ”
とツイートしたのは、
今年の5月半ばのこと。

“液体の水”らしき存在が、
火星開拓への夢をさらに
一歩近づけたようです。

人類の生命維持に必要な空気は
もちろんですが、大切なのは“水”。

さまざまな生命の進化をいざなった
のは、水に由来する
ともいわれています。

私たちは、地球が、“水の惑星”
と呼ばれるほど、水に満ちあふれて
いることに感謝しないといけない
のかも知れません。

人類にとって“水”は、
命の源といえます。

“名水あるところに銘酒あり”という事実。

日本酒にとっての“水”も、決して
欠かすことのできないものです。

米と米麹を原料としていますが、
水が重要な原料であることは、
いわずと知れた事実です。

酒造りにおいて、“種水”とも
称される、直接、日本酒の原料
となる醸造用の「仕込み水」のほか、
米を洗う水、米を浸ける水、
酒母に使う水、
できあがった酒のアルコール度数
を調整するために使う割り水
などが、醸造に直接かかわる水です。

このほか、酒瓶の洗浄用の水、
釜や桶などを洗浄する水、
道具を熱湯殺菌する水、
酒蔵内を清潔に保つ清掃用の水
などの雑用水も含めると、
使用する水の量は白米重量の
30〜50倍にもなります。

昔から、酒蔵を構える際の
条件のひとつが、酒造りに
適した湧き水が近くにあるかどうか。

幸い、日本には仕込み用の湧き水に
恵まれた土地がたくさんあり、
優良な水脈の上に蔵が建っている
例も少なくありません。

日本酒造りには、酵母の栄養源
となって醗酵を促すミネラル
(カリウム、マグネシウム、リン
など)を豊富に含んでいる水
が適しています。

ただ、水に含まれるミネラル成分が
少なくても、米からうまく溶かし出し
さえすれば、ミネラルは足ります。

「灘の男酒、伏見の女酒」という言葉
は、“灘の水(宮水)は比較的硬度が
高く醗酵が進みやすいので、
後味の引き締まった味になる”
“伏見の水(御香水/ごこうすい)は
軟水なので醗酵がおだやかで、
まろやかな味になる”という
仕込み水の硬度の違いによる
“二大酒どころ”の特徴を
言い表したものです。

ちなみに、市販されている
ミネラルウォーターの硬度は
通常30〜40程度。

宮水の硬度は180と、かなり高め。

一方、御香水の硬度は40程度です。

しかし、日本中に点在する“旨い”と
される日本酒の仕込み水の硬度は、
20を切る軟水から
200を超える硬水までさまざま。

その水を使う蔵元が、それぞれの
硬度に適した特徴的な酒造りに
励んでいる賜物といえます。

国土交通省の発表によると、
世界で安心して水道水が飲める国
はわずか15カ国のみ。

そこに含まれる日本は、
世界屈指の水が美味しい国です。

それは厳しい基準によって
水が管理されているからです。

日本酒の仕込み水については、
水道水以上にさらに厳しい
条件が求められます。

とくに鉄やマンガン、銅は、
酒質の劣化を招きかねません。

ごく微量でも混入すると、
酒は黄褐色になり、
味を損なうことになります。

なかでも鉄分はもっとも
厳しい評価対象です。

酒造りの現場において、
さまざまな用途の水だけでなく、
貯蔵するタンクや桶などの道具類
にも、クギなどの鉄分が溶け出す
素材の使用は禁物。

ホーロー加工された鉄製タンクの場合
、ホーローの割れ目から鉄分が
染み出す恐れがあるため、
わずかな傷も見逃さない日々の
チェックは欠かせない日課のひとつ。

1840年(天保11年)に宮水が見つかる
までは、新酒は夏を過ぎると
味が落ちるのが一般的。

ところが、宮水で仕込んだ日本酒は、
適度に熟成が進み、まろやかな味の
「ひやおろし」「秋晴れ」となり、
芳醇な香りを漂わせるように
なったといいます。

これが後の「下り酒」として、
灘酒を江戸に広める
ことになりました。

宮水は鉄分が極めて少なく、
酵母などの増殖に欠かせない
カルシウム、カリウム、
マグネシウム、リンが豊富に含まれ、
また海に近い環境であることも幸い
して、適度に含まれる塩分も
酵母の醗酵に有効な成分です。

宮水は、花崗岩を主とした砂礫層の
岩盤を流れた3つの伏流水が
混じり合い「宮水の井戸場」に到達。

その途中で2つの伏流水は、
かつて海だった地層を通ることで、
類い稀な水質になるのではと
考えられています。

その成分構造は複雑で、
現在の最先端の科学をもってしても、
宮水と同じ水質の再現は
不可能とのことです。

長い歴史の蓄積によって磨かれた
“水”が育んだ私たちの文化。

その中でも、大自然の偶然の恵み
によってもたらされた“旨い酒”は、
人智により、さらに旨さを
増して行きます。

ワインのように、日本酒に“当たり年”ってあるの?

野菜は、ストレスで美味しくなる場合もある。

昭和の昔、子どもたちの多くは、野菜
があまり好きではありませんでした。

その中でも、青臭いトマト、
少し苦みのあるピーマン、
独特な味のニンジンは
苦手野菜の代表格。

そして時を経て4人に1人が
平成生まれとなった現在、
ある種苗会社が野菜の好き嫌い
を調査したところ、
子どもたちの野菜に関する嗜好は
少々変わってきているようです。

2018年の子どもが嫌いな野菜
ランキングは、第1位がゴーヤ、
第2位がセロリ、第3位が春菊、
第4位がピーマンとモロヘイヤ…と、
意外と渋い結果に。

ちなみに好きな野菜のランキングは、
第1位がトマト、第2位がジャガイモ、
第3位がとうもろし。

驚くことに9位にニンジンが
ランクインしています。

子どもが好きな野菜の決め手は、
全般的に“甘み”で、嫌いな野菜は
“苦み”が影響しているようです。

こうした野菜の嗜好が変わってきた
背景には、品種改良によって
食べやすくなったことや、
料理バリエーションの大きな広がり、
豊富な調味料やドレッシングなど、
“美味しく食べるため”の工夫を
見つけることができます。

また、栽培方法でも、
“美味しく食べるため”の研究
が積み重ねられました。

野菜生育時の
「ストレス栽培」なども、
こうした大きな改良のひとつです。

元々、私たちが普段食べている
野菜の多くは海外が原産地。

気候や土壌など、日本の
生育環境との相性が必ずしも
良いという訳ではありません。

そこで、日本向けに改良を重ねた
品種の特性を引き出すために
ストレスを与えることで、
美味しさや収穫量をより
一層向上させるという栽培法です。

夜間の生育温度を低くしたり、
低温で貯蔵する「温度ストレス」や、
海水散布による「塩ストレス」、
水分供給を制限する「水分ストレス」
、“根切り”や“剪定”も
植物にとっては一種のストレス。

野菜の種類や品種によって
ストレス負荷が異なるため、
栽培している品種の適正を
良く知ることが大切です。

トマトへの水分制限をすることで、
植物が自ら持つ成長を促すキッカケ
をつくり、より糖度の高い
“フルーツトマト”を生育するなども、
この栽培法を代表する成果
とされています。

それでは、農産物のひとつである米
や酒米の栽培方法の特性は
どうなっているのでしょうか。

日本酒造りは農業の延長線上に…栽培環境の理解が大事。

酒米の品種改良には少なくとも
10年以上の歳月が必要といわれ、
誕生から約70年にもなる「山田錦」
が、いまだ最高峰を
キープし続けています。

酒米の品種改良そのものが困難
であることは、推して知るべし
といったところでしょう。

一般的に、美味しいお米が育つ
条件は、「昼夜の寒暖差」
「ミネラルを含んだ水」
「水はけの良い肥沃な土壌」、そして
「米に精通した栽培者」とされます。

これが酒米ともなると、
食米より稲穂の背丈が高く、
米粒が大きく重くなるため、
一般米とくらべて稲にかかる負担が
大きく、倒稲しやすいのが実情。

また一般米とくらべて、
酒米の植え付け時期が早く、
収穫が遅い晩生のため、
台風被害を受けやすく、
栽培の難易度は格段に高まります。

さらに大切なのが、気象条件。

以前は長年にわたる経験から、
米の出来具合に合わせて酒造りを
微妙に変えていましたが、
近年は気象条件と醸造適正を
科学的に解明するための研究
が進められています。

同じ品種の酒米であっても気象条件
によってでんぷんを構成する
アミロペクチンの構造に違いが
生まれるのではないかという
仮説に基づいてのこと。

旨い酒を造るために、醸造工程での
蒸米の高い消化性が重要で、
でんぷんを構成するアミロペクチンの
分子構造が大きく影響します。

そこで、人工気象室での何年にも
わたる実験の結果、稲の登熟期
(出穂後の時期)の気温が高くなると
アミロペクチンの側鎖(そくさ/枝)
が長くなり、蒸米が消化されにくく
なることが判明。

アミロペクチンは、ブドウ糖を構成
する分子の鎖が房状に枝分かれした
構造で、この枝(側鎖)が短いほど
消化されやすく、逆に側鎖が長いと
酵素の働きがより一層必要となるため
、消化性が一気に低下します。

さらに、出穂後1ヵ月間の
平均気温が高くなるほど
消化性が低くなることがわかりました。

猛暑の年の米は
硬く醪(もろみ)で溶けにくく、
逆に涼しい年は溶けやすい
という経験則と一致。

つまり、経験の積み重ねで受け継がれ
てきたことが科学により実証
されたことになります。

これにより酒米の登熟期の気温
をもとに、米の消化性を比較的
高い精度で予測できるようになり、
醸造作業をはじめる前の消化性の
予測が、原料米の利用率向上や
品質向上にもつながることになります。

ワインの場合、ブドウ収穫に伴う
「当たり年」というものがあります。

米もその年の気象環境に大きく影響
されますが、「当たり年」
などという表現はなく、
“今年のお酒は美味しくない”など
という消費者の声も聞きません。

天候の影響は、
麹のつくり方などで調整を行い、
それぞれのブランド品質を維持
しているからに他なりません。

日本人の“知恵”と“経験”の
成せる技といえます。

猛暑や台風、大寒波、豪雨など、
異常気象が続く昨今、
気象環境への俊敏で柔軟な対応
がより一層求められる時代。

何気なく飲んでいる日本酒の味が
“いつも通り”と感じている裏には、
深い技術が眠っています。