酉は、「酒を造る壷」の象形文字。

「酒」の部首は、
“さんずい”ではなく、“酉”。

ここ数年、
テレビでのクイズ番組ブームが
再燃しています。

とはいえ、
テレビ黎明期から手を替え品を替え、
会話の途絶えたお茶の間に
共有できる話のネタを提供してきた
息の長いコンテンツのひとつです。

お年寄りから子供まで、
世代間を越えた
知恵競べに花を咲かせています。

歴史や理科、あるいはヒラメキ、
謎解きなど、
出題されるジャンルは多岐にわたり、
視聴者の“知識欲”をくすぐる問題が
矢継ぎ早に出題されるのも
人気の要因。

そんな、クイズ番組の定番のひとつに
漢字の出題があります。

難読漢字や送り仮名など、
習ったはずの漢字なのに、
“はじめまして感”が強いことも
少なくありません。

漢字については、
10年ほど前の漢字検定ブーム以降、
根強く支持され
今に至っているようです。

学生時代に
あれほど苦手だった“漢字”なのに、
クイズ番組を通じて、
再び学ぶことになろうとは
思いもしませんでした。

クイズ番組で
部首の「魚へん」の漢字が出題され、
寿司屋の湯呑みを思い出しながら、
答えに一喜一憂するのも
お馴染みの光景といえます。

さて、部首といえば、
「酒」の部首をご存知でしょうか。
「さんずい」と思われがちですが、
正解は「酉
(さけのとり/ひよみのとり)」です。

昨今はパソコンの普及に伴って
検索しやすさへの配慮から、
さんずいの漢字に
「酒」も含まれていますが、
酉の漢字にもキチンと
掲載されています。

酉の漢字は、酒類系と醗酵系が多くを占める。

…ということで、「酉」について、
少し紐解いてみましょう。

酉は十二支の10番目にあたります。

十二支はもともと植物の成長を
十二段階に表したものです。

最初の“子(ね)”は
これから成長しようとする
種子の状態、
最後の“亥(い)”は
収穫された作物がみんなに行き渡った
状態もしくは植物の生命力が
種の中に閉じ込められた状態。

一巡した後、最初の“子”に戻るという
自然のサイクルを表現しています。

ただ、そのままの漢字では
覚えにくいこともあり、
より覚えやすくするために、
後づけで馴染みのある動物を
十二支にあてはめたとされています。

“酉(とり)”はというと、
完熟した植物の収穫を表しています。

また、酉という漢字は、
“酒を造る壷”の象形文字です。

酉が司る旧暦の8月は、
米などの収穫がはじまり、
これから来る冬に向けて
お酒を造る季節にあたるため、
「酉」という漢字をあてた
という説が有力です。

酉(さけのとり/ひよみのとり)を
部首に持つ漢字には、
次のようなものがあります。

  • (しゅう/おさ)よく熟した古い酒
  • (てい/よ-う)
    酒にひどく酔う。酩酊
  • (しゃく/く-む)
    酒をくむ。酒盛り
  • (ちゅう)濃い酒。焼酎
  • (すい/よ-う)酒によう
  • (たん/ふけ-る)酒におぼれる
  • (かん/たけなわ)
    酒を飲んで楽しむ
  • (さく/す)
    酸味のある液体調味料。す
  • (もと)
    清酒のもと。酒を造る酒母
  • (そ)
    ウシや羊の乳でつくった飲み物
  • (めい/よ-う)酒に酔う。酩酊
  • (らく/ちちしる)ちちしる
  • (いん/すす-ぐ)酒で口をすすぐ
  • (こう/もと・こうじ)
    酒のもと。こうじ。酵母
  • (てい/よう・わるよ-い)
    わるよい。二日酔い
  • (さく/す)
    す。酸味のある液体の調味料
  • 醱・醗(はつ/かも-す)酒をかもす
  • (じゅん/もっぱ-ら)
    味の濃い酒。まじり気のない酒。醇酒。芳醇
  • (ご・こ)
    まじりけのないバター類の意。醍醐味
  • (せい/さ-める)酔いからさめる
  • (だい・てい)
    仏教で最上の味とされる醍醐
  • (かい/しおから・ひしお)
    魚肉などを塩づけにして
    発酵させた食品
  • (ろう/もろみ・にごりざけ)
    にごりざけ。どぶろく
  • 醸・釀(じょう/かも-す)
    発酵させて酒などをつくる。醸造
  • (れい/あまざけ)甘酒 など

「酉(さけのとり/ひよみのとり)」
を部首に持つ漢字は、
“お酒そのものの状態や
お酒を飲んだ状態”と
“醗酵系を表す”
という意味合いが多いようです。

こんなに複雑な漢字に加え、
幅の広い表現力を持つ世界でも
難しい部類に属する日本語。

これを巧みに使いこなす
日本人の多くが、
英語をしゃべられないのは、
何とも不思議なお話です。

長寿を祝う重陽に欠かせない「菊」。

重陽の節句は「菊の節句」。

ひな祭り(桃の節句)や
こどもの日(端午の節句)などに
使われている“節句”は、本来、
子供の成長を祝うためのもの
ではありません。

1年を通して5つある「五節句」は、
1月7日の
「人日の節句(七草の節句)」
を皮切りに、
3月3日の
「上巳の節句(桃の節句)」、
5月5日の
「端午の節句(菖蒲の節句)」、
7月7日の
「七夕の節句(笹の節句)」
と続き、
最後を締めくくるのが9月9日の
「重陽の節句(菊の節句)」です。

季節の節目に、五穀豊穣、無病息災、
子孫繁栄などを祈るために、
季節の旬の植物から生命力をもらい
邪気を祓うために行事を行うのが
節句の目的とされています。

中国の唐時代の暦法が、
奈良時代に日本に伝播し、
農耕を行う際の風習が
組み合わさって
「節句」となりました。

平安時代になって
宮中行事を中心に確立し、
江戸時代には庶民の暮らしへと
広がっていきました。

9月9日の「重陽の節句」は、
新暦の10月中旬頃にあたり、
菊がもっとも美しい季節。

菊は古来より
薬草としても用いられ、
延寿の力があるといわれたことから、
長寿を司る花として重宝されました。

その昔、
宮中では菊の花びらを浮かべた
「菊酒」を飲み、
長寿を祝う「観菊の宴」が
行われたとされています。

そしてこの時期の風習として、
広げた真綿に菊の花を並べておき、
菊の香りとともに朝露がしみ込んだ
真綿で身体を清める「菊の着せ綿」や
菊の花を散らした「菊湯」、
乾燥させた菊の花弁を
詰め物に用いた「菊枕」など、
代々伝えられてきました。

 

季節を愛でる日本人の文化。

季節の節目となる「五節句」は、
もともと中国の陰陽五行説が
日本に伝わり定着したもので、
同じく季節の事象を表した
二十四節気、
さらに細かく表現した七十二候など、
日本人にとって、
季節に対するこだわりは、
本家の中国より深く根付いています。

その背景には、
日本人独特の季節への
こだわりがあります。

“世界中で四季があるのは日本だけ”
と思っている方も多いようですが、
これは大きな間違い。

北極圏や南極圏、赤道直下の極端な
気候の地域を除けば、
世界中で四季はそれなりに訪れます。

ではなぜ、四季は日本にしかない
と思いがちなのでしょうか。

それは、世界と比べると
日本の四季が特徴的という点です。

そのひとつがハッキリとした
「春」「秋」が存在すること。

世界の多くの国は、夏から冬へ、
冬から夏へと何となく変わったり、
急激に変化したりします。

場所によっては、
昼と夜の寒暖差が20℃以上の地域も
少なくありません。

日本のように3ヶ月ごとに
季節が緩やかに移り変わる国は
意外と少ないようです。

これは日本が島国で、海と山が近接
していて緑が豊かなこと、
大陸の気候と太平洋の気候の
バランスがとれ、
寒流と暖流が取り囲むように流れて
いることなどの影響によって、
独特な気候風土を形成している
ということがいえます。

また、日本の生活スタイルは
四季とともに移り行きます。

花見や海水浴、紅葉狩りなど、
さまざまな季節行事はもちろん、
俳句の季語、食材の旬など、
あらゆるところに
季節感覚は根強く浸透。

花見の宴でも、
華やかさを楽しむ一方で、
散る花の儚さを感じる“風情”が、
日本人特有の
四季を愛でる心情を表しています。

日本は季節へのこだわりが古来より
強い国といってもいいでしょう。

ひやおろしが美味しい時期も間近。

待ちに待った日本酒の季節がやってきます。