同じ遺伝子のソメイヨシノが、日本中に春を告げる。

世界を驚かせた1200年の記録が語る、桜の開花と気候の関係。

毎年この時期になると耳にする桜前線。それは、季節の移ろいを身近に感じさせてくれる風物詩です。2026年は3月16日、高知や岐阜、甲府で開花が発表され、全国的にも平年より早く咲く見込みです。桜の開花に大切なのは“冬の寒さ”と“春の暖かさ”の二つの条件で、冬の寒さで花芽が眠りから覚める休眠打破が起こり、その後の気温上昇によってつぼみが膨らみます。今年は2月中旬以降の記録的な暖かさと、3月後半の気温上昇が重なり、多くの地域で開花が早まると予想されています。一方で、3月上旬には寒気の流れ込みにより一時的に成長が鈍る場面もありましたが、大きな流れとしては早咲き傾向に変わりはありません。2010年には高知市で3月10日という観測史上もっとも早い開花が記録されました。この年は全国的にも桜の開花が早く、50の観測地点のうち18地点で観測史上3位以内という記録的な早咲きに。全国的にかなり早い年でしたが、すべての都市で最速記録になったわけではありませんでした。

現在ニュースで発表される開花日は、気象庁による観測データに基づいています。1953年から始まった「標本木」と呼ばれる桜に5〜6輪の花が咲けば開花、8割以上で満開とする基準が設けられました。対象となるのは主にソメイヨシノで、全国的に同じDNAを持つクローンであるため、地域ごとの気温の違いが比較しやすいという理由があります。こうして桜は、全国の気温の違いを映し出す“春のものさし”として使われているのです。

東京(靖国神社)での観測史上最速タイ記録は3月14日で、2020年、2021年、2023年に記録しています。2021年は、全国でも40地点以上で最速またはタイ記録が出ており“統計開始以来”という言い方で語られる年です。一方、2023年は西日本から東日本にかけて多くの地点で一斉に早咲き傾向にあり、開花から満開までの進み方もスムーズでした。このため2021年は各地で観測史上最速を更新する“記録の年”、2023年はそれ以上に全国的に早咲きが広がった“広がりの年”ともいえるでしょう。とりわけ京都では、桜の開花が気候の変化を映す指標として注目されています。近年は開花や満開の早期化が進み、2021年には3月16日に観測史上もっとも早い開花を記録しました。

さらに2023年には、3月24日に観測史上もっとも早い満開を迎えています。興味深いのは、京都の桜の開花・満開の記録をたどると、なんと約1200年前にまでさかのぼることです。貴族や僧侶が残した日記や古文書、和歌などの記録をもとに、桜の開花時期を復元。その最古の記録は西暦812年とされ、現在まで続く生物学的な観測データとしては世界でも例を見ない長さを誇ります。日記に書き留め、歌に詠む日本の文化が壮大なデータベースを生み出したのです。海外では、中世ヨーロッパが始まるよりも前の時代から自然の変化が記録されていることに驚きの声も上がり、研究資料としても注目されています。

桜は、ただ春を告げる花ではありません。気温のわずかな変化さえも映し出す自然からのメッセージです。同じ遺伝子を持つ桜が、日本列島を北上しながら少しずつ春を運んでくる。その変化を人々は昔から見つめ、書き留めてきました。今年の桜は、どんな景色を見せてくれるのでしょうか。花がほころぶその瞬間を待つ時間こそが、春の楽しみなのかもしれません。

吉野杉の香りを楽しみながら、お花見はいかがでしょうか。

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