菊と酒と長寿のこころ。重陽の節句を静かに祝う。

日本人の“老い”に寄り添う美意識。香り立つ一杯とともに、静かな時間を。

かつて“もっともめでたい日”とされた9月9日の重陽(ちょうよう)の節句。今ではその名を耳にする機会も少なくなりましたが、その静けさの中に、日本人が大切にしてきた美意識が宿っています。奇数(陽)の最大値である“九”が重なることから、古代中国では“もっともめでたい日”と考えられ、邪気を払う行事として発展。その風習は日本にも伝わり、“菊の節句”として平安時代の宮中に定着しました。

この日は、菊の花を愛で、香りを移した酒をいただき、長寿を願う風雅な一日。やがて重陽は、ひな祭りや端午の節句と同じく民間にも広まり、江戸時代には武家や町人の間でも祝われるようになりました。けれど現代、学校や職場も夏休み明けの慌ただしさに包まれ、気づけば、重陽はとても静かな節句になってしまったようです。しかし、この節句が伝えてきた精神をあらためて見つめ直してみると、私たち日本人が大切にしてきた“老いの美意識”が浮かび上がってきます。

重陽は、長寿を祝う日です。ただ年齢を重ねることを寿ぐだけではありません。歳を重ねたからこそ生まれる深みや豊かさ。

そこに価値を見出すのが、日本の“老い”へのまなざしです。俳句において“老い”は、単なる衰えではなく、移ろいゆく季節と調和する存在として詠まれています。季節ごとの落葉や霜に風情を感じるように、老いをしっかり認めて、そこに喜びを見つけ出す感性こそ、重陽の本質といえましょう。

この節句に欠かせないのが“菊”と“酒”です。菊は古来より邪気を払い、延命長寿をもたらす花として尊ばれてきました。なかでも“菊酒”は、菊の花びらを酒に浮かべて、その風情や香りを楽しみながら、一年の無病息災を願う風習です。酒は心を癒す力を持ち、人と人の関係をやわらかくほどきます。

この時期に出荷される、冬に搾った新酒をひと夏静かに熟成させた「ひやおろし」は、カドが取れて丸くなり、どこか穏やかな余韻と、静かな奥行きを感じさせてくれるのです。つまり、季節の移ろいと人生の円熟を閑かに解け合わせる風流な趣を実感させてくれます。重陽の節句は、そんな“深まりゆく季節”を味わう絶好の機会ともいえます。たとえば、“食欲の秋”と呼ばれるように、さんま、松茸、栗、銀杏、きのこ、脂ののった魚など旬の味覚が豊富です。

そんな秋が旬の食材を肴に、盃を傾けながら健やかに歳を重ねていることに感謝する。それは、自分自身へのささやかな、歳を重ねた“お祝い”でもあります。重陽の節句は、年に一度、自分と向き合い、静かに祝うための日。誰かのためでなく、自分のために丁寧に選んだ酒を、ゆっくりと味わってみてはいかがでしょうか。菊の名を冠する酒蔵より、そんな静かな祝いの時間をご提案いたします。

菊正宗 特撰 きもとひやおろし 720mL
冬に搾った新酒をひと夏熟成し、火入れせずに生詰めした、この時期にしか飲めない「ひやおろし」です。
辛口の「灘酒」は出来上がった直後は若々しく荒々しい酒質ですが、半年間熟成させると香味が整い、味わいも丸くなって酒質が格段に向上します。
菊正宗の「ひやおろし」は、生もと造りで醸した、キレのある押し味が特徴。
秋の味覚を引き立てます。

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https://www.kikumasamune.shop/