新型コロナに有効な検証結果を得た「柿渋」。期待は高まります。

「柿渋タンニン」が、新型コロナウイルス研究への新しい扉を開く。

“柿渋が新型コロナに有効”
というニュースが、
全国に流れたのは
9月半ばのことでした。

発表したのは
奈良県立医科大学の
研究グループで、
“新型コロナウイルスと唾液”と
“新型コロナウイルスと
唾液に柿渋を加えたもの”の
比較実験を行った結果、
柿から抽出した
高純度の柿タンニンによって
新型コロナウイルスを
1万分の1に不活性化(無害化)
できる検証結果が
得られたというものです。

奈良県立医科大学では、
長年にわたって
柿渋の主成分である
ポリフェノール“柿タンニン”の
抗菌作用、抗炎症作用についての
研究を行っており、
インフルエンザやノロウイルス
に対して抗ウイルス効果がある
という実証結果を得ていました。

そして、新型コロナウイルス
に対しても効果が得られる
との仮説をたて、
まさにそれが今回、
ハッキリと実証された
といえるでしょう。

ただし、今回の結果は、
あくまで第一段階の基礎研究で、
人を対象とした臨床研究とは
性質が異なります。

次のステップとして
飴やラムネ等に混ぜるなどして、
適切な柿渋濃度や
口内での摂取時間を考慮した
人対象の臨床研究が必要とのこと。

また、ただ単に
柿渋が入っていれば良い、
柿を食べれば効果が得られるという
新型コロナウイルスに対する
特効薬的なもの
という訳ではありません。

まだ研究段階とはいえ、柿タンニンが
新型コロナウイルスに対抗する
新しい手がかりとなるのは、
まぎれもない事実。

感染予防という観点で、
柿渋と他の技術との
複合的な組み合わせなどによる、
新たな発見に期待したいものです。

 

「柿渋」は、昔から日本酒醸造に欠かせない素材。

柿は、秋から冬にかけて
旬を迎えます。

新鮮な果物として、
もしくは干し柿にして食べる
というのが、一般的な認識です。

それゆえ、
“新型コロナウイルスに効果がある”
といわれても、
いまいちピンと来ないのは
不思議なことではありません。

“果物として食べるのなら
甘い柿の品種だけで良い。
わざわざ渋柿を収穫する
意味はないのでは?”というのも、
私たちが抱く疑問のひとつ。

そんな考えを一気に払拭したのが、
今回の
“新型コロナウイルスに柿渋が効く”
という発表で、
柿に対する印象を大きく変えた
キッカケといえます。

実は、柿渋の利用は古く、
縄文や弥生時代の遺跡として
発掘されているほど、
時代をさかのぼります。

また平安時代には
即身仏の腐敗を防ぐために塗布したり
、漆器の下塗りに使ったり、
下級武士の衣装の染色などに
使われていたなどという記録が
当時の文献に残存。

それ以降も鎌倉、室町、安土桃山、
江戸と、時を重ねるごとに
柿渋の用途は大きく広がり、
とくに江戸時代には
柿渋を取り扱う店が軒を並べ、
りっぱな流通商品として、
その存在を確立していました。

ところが、近代日本の幕開け
となった明治を迎え、
欧米からの科学的な学術研究と一緒に
化学合成品などが一気に流入。

日本でも独自の研究が
盛んに行われるようになり、
新しい技術や素材の開発によって、
柿渋の需要が減っています。

残念ながら現在、
柿渋を取り扱う業者は
数えるほどしか残っていません。

さて、歴史の中で、社会文化や生活を
陰ながら支えてきた柿渋は、
日本酒醸造においても、
かなり重要な役割を担っていました。

江戸時代の日本酒の醸造工程で、
柿渋で染めた木綿や麻の袋が
醪(もろみ)を搾る際に
使用されていました。

また、毎年、杜氏の仕事始めは
酒袋を柿渋で染めることから
スタートし、この作業を
繰り返し行っていたため、
酒袋は茶褐色の風合いが
増して行ったといいます。

この濃い茶褐色になった酒袋は、
現在、菊正宗酒造記念館の
各コーナー展示のタイトル表示として
使われているので、
ご来館の機会があれば、
一度ご覧ください。

現在の酒造りは機械化が進み、
酒袋を使う機会はありませんが、
自然由来の清澄剤(せいちょうざい)
として日本酒の澱(おり)を
取り除く際に使われています。

計り知れない柿や柿渋の効能は、
私たちの文化発展に
多大な貢献を与えてくれたようです。

次回コラムでは、
引き続き万能果実である柿について、
詳しくひも解いていきます。