行者ニンニクの美味しい季節。その風味は辛口の日本酒に合います。

春が“旬”の植物が多いのは、厳しい寒さによる“休眠打破”のおかげ。

冬の寒さが和らいで
暖かい日が増えるにつれ、
多くの植物は花を咲かせたり、
萌芽、発芽を迎えます。

この大きく成長するキッカケ
となるのが“休眠打破”
と呼ばれるものです。

これは冬に入る前に、
種子や芽、球根などを
一旦休眠して成長を止めていた植物が
冬の厳しい寒さによって
目を覚ますことを“休眠打破”と呼び
そこから春の暖かさに導かれるように
成長していきます。

この“休眠打破”で有名なのは桜で、
例年とくらべて暖冬だったり、
寒い期間が短いなど、
冬の寒さが不十分だったことが
開花時期を遅らせる原因
ともいわれています。

また、乾燥によって
種子や植物本体の
含水量が低下することで
休眠状態から解除されるなどの
“後熟”という現象も
深く影響を及ぼすとか。

たとえば、春の開花時期に受粉し、
すぐに萌芽や発芽をしてしまうと、
冬の寒さなどで種子をつくる前に
死に絶えてしまいます。

子孫を残すために
休眠状態に入るという、
まさに植物が生き残るための知恵。

たとえば、育てようとする
野菜などの成長メカニズムを
十分に考慮した温度管理を
上手く取り入れることができれば、
栄養価の高い美味しい野菜を
安定して収穫することができる
という訳です。

こうした研究成果は、
ハウス栽培などで応用されています。

例に漏れず、
同じように春から初夏に向けて
多くの山菜類も“旬”を迎えます。

先ごろ、このブログで紹介した
“わらび”や“ぜんまい”などは、
春に“旬”を迎える山菜の
代表格です。

同じく春が“旬”の山菜に、
ワケありげな名前を冠した
“行者ニンニク”があります。

“行者ニンニク”が
スーパー店頭に並ぶと、
春の訪れを感じる反面、
調理方法が想像できず、
なかなか手が出しにくい
山菜のひとつともいえます。

いまは、
数多くの料理を手助けしてくれる
レシピサイトがあるので、
初めての食材に
手軽にチャレンジしやすい時代。

“行者ニンニク”を使った
初の料理に
挑戦してみてはいかがですか。

下処理さえちゃんとすれば、
調理そのものは
意外と簡単なようです。

行者ニンニクを使った料理は簡単。普段使ってる食材を置き換えればいいだけ。

“行者ニンニク”は
ユリ科ネギ属の多年草で、
タマネギやニンニク、
ニラと同じ種類の山菜で、
ひと言で表すなら、
滋養強壮効果の高い野生のネギ
といったところ。

山形県庄内地方の
出羽三山の奥深くに籠って
厳しい修行を行った行者たちが、
修行の際の栄養源として食べ、
ニンニクの臭いがすることから
“行者ニンニク”
の名前が付けられたとか。

そういう意味で、
“行者ニンニク”の発祥は
山形県鶴岡市とされています。

しかし、
当の修験道の行者である山伏には、
皮肉にも
“修行中に精がつく物を
食べてはいけない”
という厳しい戒律があるため、
行者が隠れて食べていたとか、
宿坊で参拝客に振舞ったとか、
その名前を裏付ける話が
諸説残されています。

ところが、市場に出回っている
ほとんどが北海道産。

1月頃からハウス物が市場に出始め、
3月になると北海道南部の天然物が
店頭に並び始めます。

その後、北へと産地を移動しながら
4月中旬~5月中旬に最盛期を迎え、
6月初旬頃までが“
行者ニンニク”の流通シーズンです。

天然物の食べ頃の“旬”は、
4月中旬から5月いっぱい
といったところでしょうか。

“行者ニンニク”の成長は
とても遅く、種を蒔いてから
2年目の春にようやく
芽を地表に出します。

それもヒョロヒョロとした
細い茎に葉は1枚だけ。

種を蒔いて3年から
4年目になってから
葉が2枚以上となり、
5年目あたりでようやく
茎が伸びて花が咲き、
種がつき始めます。

その時点で、ようやく株の太さが
鉛筆の太さくらいとなって
収穫できるようになります。

現在市場に出回っているものは、
“行者ニンニク”の亜種とされる
北海道産の“キトビロ”や
“アイヌネギ”で、
原産とされる鶴岡産は
希少価値が高く、
“幻の山菜”とも呼ばれています。

成長が遅いことから
流通に向かず、山形県鶴岡市では
栽培をやめた農家が多く、
広大な土地をもつ北海道産のものが
流通するようになったものと
伺い知れます。

さて、“行者ニンニク”を
美味しくいただくための下処理は、
まず根っこ近くの赤いハカマを取って
土の汚れをしっかりと
水洗いで取り除きます。

調理前の準備はこれで完了。

よく食べられているのは
醤油漬けや漬物、天ぷらです。

“行者ニンニク”は独特な
しっかりとした風味があるので、
シンプルな味付けで
いただくことができます。

また、てんぷらにしても、
歯切れの良いシャキシャキした食感と
香りが抜群。

根に近い部分はニンニクで、
葉に近づくにつれて
ニラのような香りの山菜と理解すれば
料理の幅も広がると思います。

ネギ感覚で豚バラ肉で巻いて
甘辛い醤油だれで炒める、
エノキの代わりにベーコンで巻いて
塩胡椒で炒める、
ニラ感覚で餃子の具に使う、
豚肉と一緒に
オイスターソースで炒める、
鶏肉と一緒に塩だれで炒めるなど、
普段の料理の食材を
“行者ニンニク”に変えれば、
レパートリーはかなり広がります。

季節柄、
キリッと冷やした辛口の日本酒に
合うこと請け合いです。