王者の風格を備えた山菜“たらの芽”。“旬”の美味しさは、これからです。

人気アニメ作品「鬼滅の刃」にも登場した“たらの芽”。

今回も春を代表する
“旬”の山菜をご紹介。

独特のほのかな苦味と
しっとりとした食感が癖になる、
“山菜の王様”との呼び声の高い
“たらの芽”です。

しかし、“行者ニンニク”と同じく、
春の訪れを感じる食材としては
知られているものの、
どんな料理をつくれば良いのかという
イメージが湧きにくい、
やや地味な印象の食材ともいえます。

ところが数年前、そんな地味な
“たらの芽”にスポットが当たる
瞬間があったのをご存知でしょうか。

全国的なブームとなったアニメ
「鬼滅の刃」の設定資料に書かれた
主人公の竈門炭治郎の好物が
“たらの芽”という一文です。

とにかく猫も杓子も大騒ぎの
大ブームだったこともあり、
細かいことも話題になる状態で、
思いもかけず“たらの芽”
という名前が表舞台へと
導かれました。

多くのファンがそれまで知らなかった
“たらの芽”を知ることになり、
一部の熱狂的な「鬼滅」マニアが
“たらの芽”を買い求めたという
話もあったようです。

“たらの芽”が採れるのは
“たら”という名前の木ではなく、
“タラノキ”という名前の木です。

“たらの芽”をまったく
知らない人にとっては、
その音の響きから魚の“タラ”の
目玉をイメージし、
その高い栄養価が話題になった
マグロの目玉を思い描く方も
おられるのでは。

実は、“タラノキ”と魚の
“タラ”は意外な関係にある
ともいわれています。

そのひとつが、“タラノキ”の
ザラついた木肌が魚の“タラ”に
似ているというもの。

魚の“タラ”と区別するために
“タラノキ”までを
名称とした説もあります。

“タラノキ”の葉を尖った枝などで
引っ掻くとそこが黒くなる性質があり
同じ性質を持つ
“タラヨウ(多羅葉)”の
“タラ”が転訛したものという
別の説もあります。

“タラノキ”は正式な和名ですが、
名付けられた由来は
よく分かっておらず、
さらに地方ごとの呼び名が
多く存在する木です。

地方ごとの方言名の数は100種類を
超えるともいわれ、
“タラ”という文字を含む
“タランボ”や“タラッペ”、
トゲトゲした枝の特徴から
“オニノカナボウ”、
“イギノキ”など、
まったく別の名前が存在します。

これは、北海道から沖縄の
全国の山に自生する
普通の木のひとつなので、
それぞれの地域で独自の呼び名で
呼ばれているということを
表しています。

木の高さは、大きくなっても
2〜3mほどの落葉低木。

生育旺盛でどんどん新しい芽を出して
成長しますが、寿命は15年前後と、
樹木の中ではかなり短命です。

市場に出回るほとんどが栽培もの。野趣あふれる美味しさを楽しむなら天然もの。

野生の“タラノキ”の
見分け方は簡単です。

それほど太くない幹はトゲトゲで、
ひと目見ただけで、どこかの地方で
“オニノカナボウ”と
呼ばれている理由が分かるほど。

早春ともなると、
目ざとい地元の人たちによって、
“たらの芽”の最初の新芽は
採られることが多く、
野生の“たらの芽”は
意外と入手困難です。

新芽は次々と芽吹きますが、
2番芽以降の新芽を摘まれると
“タラノキ”は枯れてしまうことが
多いともいわれ、
野生種を維持する意味で、
“1番芽以外は採らない”という
暗黙のルールもあるようです。

“たらの芽”の
特出すべき栄養価として
体内に溜まったナトリウムを外に
排出する働きのあるカリウムを
多く含んでおり、高血圧予防に
効果が高いといわれています。

また、βカロテンをはじめ、
マグネシウム、リン、鉄分、
ミネラルなどの栄養素も豊富に含み、
健胃や強精、強壮作用への
期待が持てる食材として、
昔から重宝されてきました。

スーパーなどの店頭に並ぶほとんどが
栽培ものなので、
野生種が持つ独特の苦味や
クセのある風味はややまろやか。

“たらの芽”本来の野趣にあふれた
香りや風味を楽しむなら
野生の天然ものがオススメです。

料理にする前の下処理は、
付け根のハカマや
硬い部分を切り落として、
1ℓの水に塩20gの割合の
沸騰した湯で2〜3分茹でて
冷水に漬け込んでアク抜きを。

天ぷらなど生のまま調理する際は
アク抜きは不要です。

油で揚げることでアクが
旨味に変わります。

アクを抜いた“たらの芽”は
ポン酢で和えて鰹節を振った
お浸しやゴマ味噌和えなどが
定番の料理。

パスタの具や炒め物の具にも
適していて、オリーブオイルや
バターと相性の良い食材といえます。

独特の苦みのある風味は、
酒の肴としても一級品。

まだ朝夕涼しい時期なので、
今シーズン最後の燗酒にもぴったり。

もちろん冷酒にも合うので、
お好みに合わせて、春の“旬”を
ご堪能ください。