京都の老舗『祇園 原了郭』(ぎおん はらりょうかく)の“黒七味”に秘めた一子相伝の“技”。

ご存知「忠臣蔵」と関係深い300有余年の歴史を刻む老舗。

「忠臣蔵」で有名な
赤穂四十七士のひとりを“祖”にする、
香煎・薬味の老舗が
京都・祇園にあります。

その名も『祇園 原了郭』、
300有余年続く人気の名店です。

“祖”とされるのは、
足軽頭として表門隊に配備された
原惣右衛門元辰
(はらそうえもん もととき)。

吉良邸討ち入りの際、
大石良雄を助ける参謀格として、
主君浅野内匠頭の仇討ち
を果たした後、切腹。

56年の生涯を閉じました。

この原惣右衛門元辰を父に持つ
原儀左衛門道喜が出家して“了郭”
と号し、1703年(元禄16年)に、
祇園社(八坂神社)の門前に
香煎を供する茶店を開いたのが
『祇園 原了郭』の原点です。

貞信都名所之図 祇園社西門
貞信都名所之図 祇園社西門

当時の様子は、江戸時代の木版画
「貞信都名所之図 祇園社西門」
に描かれ、その中に
“御香煎司 原了郭”という文字を
読み取ることができます。

『祇園 原了郭』の
創業以来の看板商品は、
徹底してその品質にこだわる
一子相伝の独自の製法による
「御香煎」(おこうせん)です。

香煎は、
漢方薬の原料にもなっている
陳皮(ちんぴ)やウイキョウ、山椒
などを独自の製法で配合し、
香ばしく煎って粉末状にしたもの。

白湯(さゆ)に浮かべて、
その香りを楽しみます。

香煎そのものの歴史は古く、
江戸時代に街道の
宿場や茶屋に置かれ、
旅人を癒したとされています。

現在、『祇園 原了郭』では
“御香煎”をはじめ全5種が販売され、
茶事や料亭で最初に出される飲み物
など、幅広く重宝されています。

「御香煎」と並ぶ、
もうひとつの看板商品が約100年続く
「黒七味」(くろしちみ)です。

これは11代目が
香煎の原料に含まれる山椒に着目した
ことが最初で、いまでは「御香煎」
をしのぐ人気商品となっています。

12代目の時には“七味とうがらし”
という名で販売され、
現13代目になり
「黒七味」ブランドを確立しました。

商標登録にあたっては、
一子相伝ということで
その細かい原材料を
あかしていないこともあり、
商標登録出願から
約12年もかかったといいます。

それだけ大切に取り扱っている
商品への慈愛を感じさせてくれます。

 

 

老舗のこだわりが磨き上げた「御香煎」と「黒七味」。

長い歴史を持つ京都の老舗、
厳格な敷居の高さを覚悟して伺った
『祇園 原了郭』本店は、
創業当時と同じ
八坂神社へと続く四条通沿いの
祇園エリアの中心に位置しています。

この祇園本店に続いて、
2012年(平成24年)、
縄手通に『Ryokaku』をオープン。

その店頭は、1847年(弘化4年)版
「二千年袖鑒
(にせんねんそでかがみ)」
に掲載されている
江戸時代の『祇園 原了郭』の茶店の
佇まいを再現したものです。

その新しいお店で、
現在13代目を数える当主“原悟”氏の
奥様の原美香さんが、満面の笑顔で
お出迎えくださいました。

「黒七味」「御香煎」ともに、
親から子へと一子相伝で、
その原材料の配合や製造技法を
継承されたものです。

漢方由来の自然素材であるが故、
気候や土壌環境によって
その生育状態は異なります。

丹念に揉み込むなかで、
生きた素材の状態を瞬時に見極め、
匂いや手触り、音などの五感を
研ぎ澄ましてして、
仕上がりをイメージして
素材に寄っていく…
まさに、職人の成せる“技”。

それまで代々行ってきたように、
すべての調合を
13代目自ら手作業で行い、
その現場に入ることを許されている
のは次の当主として予定されている
現在高校生の14代目のみという
厳格なしきたりがあるといいます。

繊細な五感を持つ血筋
であろうことは、
300有余年の歴史から想像できますが
、子どもの頃から当主の“技”を
垣間見て育ち、作業場に漂う
独特な空気感や立ち込める香り、
舌にヒリヒリと感じる味わいなど、
環境そのものが
次の当主を育てるのでしょう。

開封した際に“さすが”と感銘いただく
商品でありつづけるため、
賞味期限は3ヵ月が目安。

水分を含んでいないので、長期保存は
冷凍庫がおすすめとのことです。

近年、「黒七味」を名乗る類似品が
市場に出回っていることに
苦慮しつつも、

“そう簡単に真似できるようなもの
ではありません。お客様が、
そちらの味を好まれるのであれば、
それはしかたがないこと。”

と、老舗ならではの懐の深さ。

類似品を購入されたお客様のクレーム
にも丁寧に応対されているそうで、
これが長年愛される製品を
送り出している老舗の矜持
と納得しました。

販売を一手に引き受けているのは、
奥様の美香さん。

ソーセージや餃子、味噌汁、また
チョコレート、あられなどにつけて
食べると、驚くほど味の変化を
楽しむことができるといいます。

こうしたアレンジレシピを、
広めるのが目下の目標。

とくに料理の幅が
大きく広がっている現在、
欧風や中華など、
アレンジは無限大です。

これまで、さまざまな企業からの
依頼を受けて
『祇園 原了郭』黒七味を原材料
として提供された実績のひとつに、
オーガニックに強いこだわりを持つ
2014年に創業したグラノーラ専門店
『COCOLO KYOTO』があります。

『祇園 原了郭』店内に、
『COCOLO KYOTO』が製造する
「黒七味ナッツ」のコーナーを
設けておられることを見ると、
同じ京都に存在する
若いお店を応援される
老舗の包み込むような優しさを
垣間見たような気がしました。

2020年2月の取材時は、
いつもとくらべると
閑かな京都市街でしたが、
昔の佇まいを思い起こさせる
ような気がしました。

冬の寒さ厳しい京都にあって、
歴史を重ねた熱い想いに
感銘を受けたひとときでした。

次回、グラノーラ専門店
『COCOLO KYOTO』の話題
へと続きます。