「本醸造酒」と「純米酒」の大きな違いは、アルコール添加。

ありがちな“醸造アルコール”の誤解。

日本酒の裏ラベルの原材料名に表記
されているのは、一部の商品を除いて
、「米」「米麹」、酒質によっては
「醸造アルコール」が
ここに加わります。

酒造りのために厳選した
“お米”と“米麹”、そして表記
されていない最適な“水”
というシンプルな原材料。

それらを選び抜いた後、酵母などの
微生物の力を借りて、醗酵による
熟成度合いの確認や厳密な温度管理
などの複雑で繊細な醸造工程を経て、
素材の持ち味を存分に引き出した
美味しいお酒が生まれます。

日本酒は、
醸造アルコールを添加しない「純米酒」
と醸造アルコールを添加した
「アル添酒(=アルコール添加酒)」
に分けることができます。

「アル添酒」は“醸造アルコール”を
加えているということから、
アルコールによる“水増し”と思われ
がちで、ここが大きな誤解を
生じさせている要因の ようです。

以前は、より安い清酒を製造するため
に、醸造アルコールで酒の量を増加
させ、製造コストの軽減を図る
場合もありました。

戦後、米が不足していた時代に生み
出された「三倍増醸酒(三増酒)」
と呼ばれる醸造方法で、
酒の量を三倍に増やしていたのです。

いまは、酒税法による厳格な管理の元
、三倍増醸酒は認められておらず、
米のみで造られたお酒と同じ量の
アル添が限度となります
(いわば、二倍増醸酒)。

「本醸造酒」は現在、醸造アルコール
は、醪(もろみ)への添加のみが許可
され、その添加量は白米重量の10%以下
という厳しい基準が設けられています。

具体的には、醸造アルコールを添加
することで、「醗酵をとめる」
「酒質を淡麗にする」
「香りを引き出す」
「火落ちしにくくする」などの効用
を期待するものです。

日本酒に用いられる醸造アルコール
(食用のエチルアルコール)はすべて
、酵母のアルコール醗酵により
つくられたもので、
95%以上のアルコール濃度に
蒸留された純度がかなり高いもの。

その原料は主として、サトウキビ、
イモ類などの植物由来です。

不純物がほとんどなく、日本酒の
風味を損なうことはありません。

醸造用アルコールが添加された日本酒
に対する、“粗悪で品質が悪い”
“悪酔いする”などの悪い思い込みは
、まったく根拠のない噂話に過ぎず、
“どのくらいの量を使って、
仕込みの香りを整えるのか”
“吟醸香と淡麗さのバランスをとる”
“狙い通りの酒質に仕上げる”などを
目的とした、非常に高い技術
を要する奥の深い工程といえます。

 

歴史に刻まれた“醸造アルコール”の足跡。

醸造用アルコール添加の歴史は古く、
江戸時代初期には確立されていた
という説が有力です。

芋や酒粕を醗酵させた醪からつくった
焼酎を、貯蔵桶に振り掛けたり、
醪に添加するなどが行われており、
これを「柱焼酎」と呼んでいました。

これは、当時の酒造りには欠かせない
工程のひとつとされていたことが
「童蒙酒造記」という
文献に残されています。

いまでいう
アルコール添加の走りです。

当時、柱焼酎は清酒の味を整える
ばかりでなく、火落ちを防ぐ
(火落ち菌の増殖を防ぐ)
ことが重要な課題のひとつ。

江戸の昔、醸造設備は現代のように
整っていないため、雑菌の増殖や
カビの繁殖による腐敗を防ぐことが
大きな役割だったと考えられます。

とはいえ科学などと無縁の時代、
数えきれない試行錯誤の末、
アルコール添加の工程が誕生
したものと、うかがい知れます。

ここ最近の純米酒ブームのあおり
を受けて、かたくなに
“純米酒以外は飲まない”という方も
おられますが、それはとても
もったいないこと。

日本酒の鑑評会に出展されるお酒に、
アルコール添加による大吟醸酒が多い
ということを、よく耳にします。

また、飲みくらべた時に、
純米酒より本醸造酒の方が旨みが深く
、香りが豊かに広がると感じる
という声も多くあります。

絶妙に“アル添”により整えられた
お酒は、“既成概念にとらわれて
触れようとしなかった”
日本酒の世界を、さらに大きく広げて
くれるのではないでしょうか。

日本酒は嗜好品で、好みは千差万別。

評論家の言葉に揺らぐことなく、
先入観を捨て、
自分の“舌”が美味しいと感じる
ものが、正解といえます。

そのためにも、
さまざまな日本酒を味わって、
“自分にとっての美味しいお酒”
に出会うことが大切です。

純米酒は美味しい、
本醸造酒も美味しい。

日本酒のマイスターになるための
修行をはじめてみませんか。

菊正宗上撰本醸造とお刺身