“ひな祭り”の食卓。
ハマグリをお吸い物にする理由。

“桃の節句”、“ひな祭り”、ともに「上巳の節句」の別称。
ご存知でしたか?

3月3日は、
いわずと知れた女の子の節句。

正式には「上巳(じょうし)の節句」
という五節句のひとつです。

他の節句と同様に、植物の名を冠した
和名が“桃の節句”で、
その行事として行われるのが
“ひな祭り”です。

今では、「上巳の節句」と
呼ばれることはあまりなく、
テレビなどでも、季節の風物詩として
“桃の節句”や“ひな祭り”と
ニュース紹介されることが
ほとんどといっていいでしょう。

また、この節句という単語は、
本来“節供”と書き、
季節の節目に、神様への供え物を
したことを表した言葉。

正月に食べる料理を、
お節料理と呼ぶのも、
節句料理からきた名称です。

「上巳の節句」に限らず、
日本の行事の多くは、古代中国で
確立した“陰陽五行思想
(いんようごぎょうしそう)”が
日本に伝わったもの。

そして、農業大国日本の生活様式に
寄り添うように独自の
進化を遂げて行きました。

農業の行事はもちろん、
宮中行事や神道の祭祀など、
伝わった大陸との気候の違い、
季節の感覚、日本のしきたりなどに
順応した暦ということです。

日本の暦の大きな分岐となったのは、
1872年(明治5年)12月2日の翌日が、
1873年(明治6年)1月1日となった、
旧暦から新暦への切り替わりです。

その際、多くの歳時や年中行事は、
もとの季節感に沿うように、ひと月
遅らせてその行事を行う“月遅れ”を
採用しました。

しかし、節句には、
奇数が重なる月と日はおめでたい
という考え方があり、
日付そのものに
意義があるということで、
新暦となった現在も、
旧暦の日付によって
節句行事が行われています。

日本での「上巳の節句」の始まりは、
平安時代に、京都の貴族子女が、
天皇の住まいである御所を模した
御殿に飾り付けをして
健康と厄除を願って遊んだことで、
それがやがて行事として広まり、
宮廷で節会(せちえ)という宴が
催されていた記録を当時の文献に
見つけることができます。

それから時代は移り、
武家社会へと広がり、
江戸時代になって以降、
庶民の人形遊びと節句が
結びつくことによって、
現在の行事の原型が
形つくられて行きました。

“ひな祭り”行事の中心は、やはり、
ひな人形の段飾り。

そこにひなあられや菱餅を供え、
白酒やちらし寿司、ハマグリの
お吸い物を節句料理として食べて
祝うのが、一般的な
“ひな祭り”の祝い方です。

また、“ひな飾りは3月3日を過ぎると
すぐに片付けないと婚期が遅れる”と
耳にすることがありますが、
これは根拠のない都市伝説。

片付けの目安として二十四節気の啓蟄
(3月6日前後)あたりというのが
慣習として伝わっていますが、
これも行動目標に過ぎません。

とくに日にちを気にすることなく、
人形にカビがこないように、湿気の
ない晴れた日に、防虫剤を入れて
片付けるのがベストのようです。

 

ハマグリは、なぜ味噌汁仕立てではないのか。

さて、“ひな祭り”の料理のひとつに
上げられる「ハマグリのお吸い物」。

ハマグリを具材に使ったのには、
ちゃんとした理由があります。

ハマグリの貝殻は、
上下で対となる貝殻以外、
同じハマグリであっても他の貝と
ぴったり合うことはありません。

このため、生涯ひとりの人と
添い遂げるという願いが込められる
など夫婦円満の象徴とされたことから、
当時、ハマグリを縁起物の良い
食材として重宝していました。

そのひとつが
「ハマグリのお吸い物」なのです。

ここで、アサリやシジミは
味噌汁なのに、ハマグリは
お吸い物仕立てなのかという疑問が
改めて湧きます。

これは、ハマグリの味が繊細で、
味噌の濃い味にハマグリの味が
負けてしまうということから、
あまり味噌仕立てにはしないという、
料理へのこだわりのようです。

日本の汁料理は
大きく2つに分類されます。

会席料理の先付の次に酒の肴として
出されるのが“お吸い物”で、
昆布や鰹節の出汁に塩や醤油、味噌で
味をつけ具材に魚や野菜、鶏肉を
入れたものです。

粕汁やみぞれ汁、海老しんじょなども
この分類に当てはまります。

もうひとつが、
料理の最後、甘味ものの前に、
ご飯と一緒に出される汁物で、
味噌を入れるのが“味噌汁”、
醤油で味をつけたものが“すまし汁”、
塩味の味つけが“潮汁”です。

なので「ハマグリのお吸い物」は、
実際にはハマグリの潮汁です。

しかし、ここは伝統的に伝わる
料理名称として
「ハマグリのお吸い物」と
呼ぶこととしましょう
砂抜きをして水洗いの下処理をした
ハマグリを出汁昆布、酒少々と一緒に
水に入れ、弱火よりやや強く
時間をかけて煮ます。

沸騰したら昆布を取り出し、
貝の口が開いたら出来上がり。

味を整えるのは塩加減だけ。

ポイントは水から煮出して
ハマグリのエキスをより多く
取り入れることと
灰汁を取り除くことで
雑味を取ること。

木の芽を手の平で叩いて
汁に浮かべるのも、
アクセントとなる香りづけに
おすすめです。

意外と簡単な「ハマグリのお吸い物」
レシピなので、
今年の“ひな祭り”には、
ぜひ挑戦してみてください。