日本酒の「ヴィンテージ」は 、ワインの「ヴィンテージ」とは別物。

ワインの「ヴィンテージ」は、ブドウの出来不出来の評価が基準。

日本酒とよく比較されるのが、
同じ醸造酒であるワインです。

ワインといえば、
「ヴィンテージ」ものが
数十万円を超えるような高値で
取引されている印象があります。

一般的に「ヴィンテージ」というと、
クラシックカーやジーンズ、
ブリキのおもちゃなど、古い年代物、
年期の入った掘り出し物
という印象が強いのですが、
ことワインに関しては、
原料となるブドウを
収穫した年を指しています。

つまり、
収穫された年の気候の影響を受けた
ブドウの出来不出来が
ワインの味に大きな影響を与える
という考え方です。

“○○年のボルドーが素晴らしかった”
など、長期熟成できる秀逸な
ブドウの収穫年であったことを
如実に表わしています。

こうした「ヴィンテージ」の
評価の目安となるのが、
“ヴィンテージチャート”です。

本場フランスをはじめとする
欧州エリアを中心に、北米や南米、
オーストラリア、アフリカなどの
名だたるワイン名産地区のメーカーが
発行しているもので、
これだけをみると、丁寧な仕込みは
必要であると理解した上で、
仕込んでしまえば、
後は熟成のタイミングを待つのみ
と考えてしまいがちです。

とはいえ、ボルドーではシャトー、
ブルゴーニュではドメーヌ
と呼ばれる生産者は、
これまでの実績等で
厳格に格付けされており、
決して品質維持を怠っている
訳ではありません。

また、ボルドーには複数の品種による
ワインの原酒をブレンドして、
それぞれの良いところを引き出して、
思い描く理想的なワインを組み立てる
という伝統的な技法があります。

このブレンド工程を
“アッサンブラージュ”と呼び、
ブレンドすることで、
毎年異なるブドウ品質を
整える意味合いもあるようです。

 

ブルゴーニュ地方のぶどう畑

 

それに反して、
ブルゴーニュのワインは
ブレンドをせず、
ひとつのブドウ品種による
単一ワインが特徴。

どちらにも
メリットデメリットがあり、
それぞれの生産者は
信念を持ってワイン造りを
行なっていると考えるべきでしょう。

同じ銘柄のワインであっても、
この「ヴィンテージ」により
価格は大きく変わります。

また、
同じ「ヴィンテージ」であっても、
仕込んだ樽によって微妙に異なる
品質や保管環境によっても大きく変化、
ボトルに封入された後も
熟成が進んでいるため、
ボトルごとでも味わいが異なると
いわれています。

ワインとは、
そのさまざまな変化を楽しむ飲み物
なのかも知れません。

 

日本酒の、“いつもと変わらない味”を表現する技術。

日本酒の原料となる
酒米(酒造好適米)の場合はというと、
当然、ブドウと同じ農作物なので、
毎年作柄が異なるのは当たり前のこと。

この両者で大きく異なるのは
果実と穀物という点です。

ブドウの場合は天候や日照時間、
降水量の影響を受けて、
糖度や酸味が大きく変わります。

一方、酒米は、豊作か凶作か
ということはありますが、
味覚や香りに関する良し悪しの影響を
あまり受けません。

これは、
酒米の作柄に左右されることを
醸造技術が補っているからです。

酒米は、その魅力を最大限に
引き出してくれる
水との出会いによって、
旨い酒へと変わっていきます。

日本酒はその年に獲れた新米で、
“いつもと同じ味わいの酒を造る”
ということが基本です。

酒米についても、
ある程度の天候の変化を想定した
品種改良が重ねられた結果、
山田錦という栽培と醸造の両方に
おける最高峰を生み出しています。

つまり、ワインと同じ、
栽培に好適な地形、気候、
日照時間などの
“テロワール(地勢的優位地)”
において生産される
山田錦の魅力を最大限に引き出すのが
日本酒の醸造技術といえるでしょう。

ワイン醸造家が
日本酒の複雑な醸造工程に
舌を巻いたのは有名なお話。

ブドウにはもともと
糖分が含まれているため、
酵母を加えればそのまま醗酵が進む
“単醗酵”。

しかし、酒米には
糖分が含まれていないため、
麹菌によって米に含まれている
デンプンを糖分に変化させ、
その糖分を酵母により
アルコール醗酵させる工程を
同時に行う“並行複醗酵”という
複雑な醗酵工程が
ワイン醸造家を驚かせているようです。

日本酒の「ヴィンテージ」というと、
一般的な認識と同じように
長年熟成させた古酒を指します。

このためには、最初から
「ヴィンテージ」を意識した
低温熟成による管理が必要です。

菊正宗でも2001年に醸したお酒を
冷却貯蔵により約20年熟成を重ねた
「オデュッセイア」を
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ワインも日本酒も、
長い歴史に培われた技術があり、
簡単に語り尽せるような
代物ではありません。

ただ、そうした知識を持って
グラスや盃を傾ければ、
より一層旨く感じる、
酒の肴なのかも知れません。